平成19年2月19日
日本産科婦人科学会産婦人科医療提供体制検討委員会 御中

                                         日本産科婦人科学会大分地方部会
                                                会長 楢原 久司
                                         大分県産婦人科医会
                                                会長 松岡幸一郎

                  要望書

 日本産科婦人科学会大分地方部会・大分県産婦人科医会では、"大分県周産期医療体制の整備に関する検討委員会"を設置して「大分県の周産期医療のあるべき姿」を検討中のところ、 今般の日本産科婦人科学会産婦人科医療提供体制検討委員会による「第2次中間報告−産婦人科医療の安定的供給のために−」につきましては、下記の事項について検討のうえ修正を要する問題点として認識いたしました。
貴委員会におかれましては、下記に提起いたしました問題点につき、ご検討・ご修正いただきますよう、ここに要望いたします。


「第2次中間報告書 −産婦人科医療の安定的提供のために−」に関する、修正すべき問題点

1."診療内容の公開"について  5ページ2行目
「すべての医療機関の診療内容は公開されなければならない・・・」
 本報告書には「情報公開」の文字が散見され、おそらく世論の動きを勘案した表現と思われますが、(ア)(イ)・・の並びにきちんと「産婦人科医療機関の情報公開のあり方」と見出しを付け、要点を明確に論ずるべきであると考えます。
 われわれの実情を考えれば、各医療機関が医療情報公開を前提に現在の医療を行っているとは到底考えられません。情報公開の延長にはカルテ開示に耐える診療録記載、さらにその根底には妊娠経過表、分娩経過表の標準化、分娩(私費)と保険診療の混成など、他科に無い、しかも産婦人科医療の本質を表現するものでありながら、統一や標準化が図られていない部分が多くあります。
 情報公開だけを声高に謳っても、各論の部分で産婦人科組織が自浄的、自発的に公開に絶え得る産科診療録の作成啓発を図らなければ絵に描いた餅です。
 情報公開のあり方、それに向けての各産婦人科医師の情報公開に耐え得る診療と診療録記載(保存も含めて)、臨床統計の公開などを向上、啓発していくことを謳うべきであると考えます。

2.妊娠・分娩管理のあり方  5ページから6ページ
オ)妊娠・分娩管理のあり方
この項の記載には、大きな矛盾があり、このままでは不適切であると考えます。
1.妊娠分娩管理の原則に関して
(1)産婦人科医が常時管理・介入可能な体制・環境
産婦人科医が常時管理・介入可能は体制とは、医療法においての病院・診療所において行われるべきとの意味でありますので、その旨明記する方が適切であると考えます。
(2)助産師によるケアの下で行われる 
   "ケア"とは何を意味するのか不明であって、きわめて不適当な表現です。 
 医師法下における医療行為の補助としての意味であれば、助産師に限られるべきではありません。 また、病院・診療所で行われる分娩はすべて医師法の下に管理されることになりますから、助産師の責任の下で行われる行為は存在しません。また、病院・診療所でお行われる分娩ですから、分娩に関する医療行為の補助を看護師・准看護師が行ったとしてもその安全性に何ら問題はないはずです。
(3)助産所に関する記載について
 「産婦人科医が常時管理・介入可能な体制・環境」との原則をあげながら、
「1.助産所は産婦人科医との密接な連携を前提として、地域分娩施設群の構成員として分娩の安全を確保する。」とするのは大きな矛盾があります。
助産院とは、医療法上も基本的に医師の管理が常時行われない施設ですから、ここで上げていること自体に矛盾が生じています。
2.看護師の内診についての記載に関して
「看護師内診が不必要となることを目指す」とありますが、これは日産婦学会会員および日本産婦人科医会会員の考えと異なっており、不適切であると考えます。  
*日本産婦人科医会のまとめた「周産期医療崩壊の現状と対策」を周知願います。
また、産科エキスパートナース等の養成も考えられているところであって、この記述は日本産科婦人科学会の意見として極めて不適切であって削除されるべきです。
病院・診療所で行われる分娩はすべて医師法の下に管理されることになりますから、助産師の責任の下で行われる行為は存在しません。また、病院・診療所でお行われる分娩ですから、分娩に関する医療行為の補助を看護師・准看護師が行ったとしてもその安全性に何ら問題はないはずです。

3.「周産期救急情報ネットワークを全国で単一のシステムとし、・・」  7ページ16行目
  もっとも気になる修正を要する文言です。
 全国で単一の周産期情報システムなどあり得ないと考えます
 人口100万人に1つのセンターという過去設定された「単一の」基準がいかに不合理なものか、いかに各地域の周産期体制を窮屈にしたか、まったく学んでいません。
 周産期体制は各地域で地理的、金銭的、病院分布、住民気質からまったく異なるという前提で、地域独自(県単位程度)の体制を立案すべきと考えます。
「単一システム」とは中央官庁的、大都市的発案の文言であり思想です。文中、「最適化」は結構ですが、「単一」ではなく一定の大原則の下で「各地域の実情を勘案した」体制を構築すべきです。そして、その案は都道府県日産婦支部、医会の主導の下で作成され、中央が把握すべきです。

4.「30分ルール・・・」に関して   8ページ29行目
 30分ルールについては、努力目標として30分を科学的根拠の裏付けなくかかげているというのが実状であろうと考えます。30分以内に帝王切開(急速遂娩)できるとどれだけの予後改善ができ、30分を超えるとどれだけの予後不良が出るなどというデーターは無いのですからここに記載すること自体が不適切であると考えます。すでに一人歩きしている30分が追認され、30分を超えて娩出できなければ全て医師の責任とされる恐れがあるとも考えます。
 また、表現の上で「急変時に30分以内に帝王切開による児の娩出が・・」と「帝王切開」に「限定」させていることに問題を感じます。ベストの選択分娩法は帝王切開だ、と明文化したことにならないでしょうか。 帝王切開しなかったことが悪い、という訴訟が横行している世の中で、この表現は「分娩方法まで限定させた」言い回しになっています。「30分以内に急速遂娩が可能な・・・」といった表現のほうが妥当と考えます。
基本的に、30分を努力の目安とすることに異論はありませんが、上記の観点から記載するならば、その背景についてもしっかりと記載しなくてはならないと考えます。

5.地域医療計画との関係   12ページ"
A 地域医療計画との関係:産科医療圈、地域分娩施設群の概念の位置づけ
    1.各医療圈における必要産科病床数の明示
 日本産婦人科医会では、自由開業医制度を堅持する観点から、医療計画における有床診療所の病床数の規制は行われるべきではない旨を表明しています。
 この項目における、必要産科病床数を明示することが、有床診療所の病床規制につながる懸念があります。したがって、この項目の記載は"必要最低病床数"として、慎重に記載をするべきであろうと考えます。

以上